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こんなことなら、もっと激しく怒鳴ってくれた方がマシだった。
素直に感情をぶつけられれば、私だって言いたいことを言えたはずだ。
そしたら彼が何に怒っているのか分かるのに。
なんて、
そんなアホみたいな極論に及ぶほど、私は阿部さんの気持ちが知りたくて必死になっている。
なに考えてんだ、と窓の方に頭を傾けたら、距離を見誤って結構な勢いでぶつかった。
地味に痛い。
けど、彼は何も言ってくれない。
また胸がチクリと痛む。
怒鳴ってくれたら…なんて思ったけど、実際にそんなことをされたら間違いなく、私の豆腐メンタルは跡形もなくぐずぐずに崩れるんだろうな。
交差点を右に曲がった正面に、テレビ局のランドマークでもある巨大な球体が見えてきた。
「Aさん…えっと、もうすぐ着くから準備して」
喉の奥に張り付いたような声で阿部さんに言われ、弾かれたように正面を向き直る。
横目で見た彼は、少しだけ視線を泳がせた。
なにさ、阿部さんまで気まずそうにしちゃって。
「あ…う、うん」
心ではやや強気にそんなことを思いながら、私も同じようにぺたりと喉の奥に張り付いた、なんともよそよそしい返事をした。
テレビ局に戻り、楽屋で待機していた田ノ上さんと合流する。
「Aちゃん…!」
「た、田ノ上さん…」
頼れるチーフマネージャーとして、普段はみんなのお父さんポジションとしてでんと構えている田ノ上さんが、私を見た瞬間に顔をくしゃくしゃにして駆け寄ってきたもんだから、なんだかこっちまで泣きそうになってしまった。
「大丈夫…なわけないよね。怖い思いさせちゃって本当にごめんね」
「いえいえ、そんな」
「阿部ちゃんもお迎え本当にありがとう。Aちゃんには聞きたいことしかないんだけど…まずはこれ。阿部ちゃんから言われて急遽買ってきたから大きいかもしれないけど、ないよりマシだから着てね」
女の子がいつまでもそんな格好でいてはいけないよと、田ノ上さんから手渡されたのは、新品の黒いトレーナーだった。
いくら見た目にはそれっぽくは見えないとはいえ、確かにいつまでも半袖のインナー一枚で居続けるわけにはいかない。
受け取り、傷口に触れないように注意しながら袖を通す。
ダボっとした着心地は、家で着古しているスウェットそっくりで安心する。
それにしてもいつの間に手配してくれたのか。
椅子に座り、こちらを見ていた阿部さんに視線を向ければ、「まあ気にしないで」と小さく目配せしてきた。
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作者名:泥濘 | 作成日時:2024年4月16日 12時