溶けたのはアイスか ページ25
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「ありがとうございましたー」って気怠るそうな店員さんの声と、軽快な音と共に開いた自動ドア。
「あ…」
深「…」
仕事終わりに、この間康二くんに選んで貰った桜色のシアーシャツとかのネットショッピングの支払いをしようと立ち寄ったコンビニ。
携帯で支払い画面を確認してて、顔を上げたら丁度フッカさんが出て来るところだった。
流石に知らんぷりは出来ないと思ったのか控えめに会釈してくれた。
私も小さく頭を下げて中に入る。
ちょっとしたおやつを選びながら、最近は外で住人さんと会ってもあんまり驚かなくなったなーなんて考えてた。
いちいち驚いてたらキリが無いというか。
何の因果か本当によく顔を合わせるから。
「ありがとうございましたー」
レジをしてくれた若い店員さんのやっぱり気怠るそうな声を背中に外に出て、思わず足を止めた。
深「…ちょっと話さない?」
困ったみたいに笑うその人が、外のゴミ箱の横に立ってたから。
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自動ドアがあって、ゴミ箱が並んでて、その隣に設置されたベンチに、何故かフッカさんと座っている。
私たちの間は1人分空いているのに、手にはパキッて半分こできるアイスを仲良く分けっこしていて。
不思議な距離感だった。
深「…ごめんね、なんか。
帰るとこだったのに引き止めちゃって」
「いえ…」
すっかり日も長くなって、アイスが美味しくなる季節。
さっきから部活帰りか何かの学生達が変わるがわるやって来ては、私達をチラ見して帰って行く。
深「ふは なんかめっちゃ見られんね。俺ら」
「物珍しいんでしょうね
この時間に大人の男女がコンビニの前でアイス食べてるの」
深「大人だって寄り道くらいしてもいいじゃんね?」
「なんか青春って感じじゃない?」っておどけるフッカさん、もとい深澤さん。
私なんかと青春しなくても、この手の人種は過去に充分して来ただろうに。
「…なんで寄り道したくなったんですか?」
正直、今だにあのシェアハウスで唯一距離感を掴み兼ねていた。きっとお互いに。
深「んー…なんとなく?」
へらっと笑う深澤さん。やっぱり掴めない。
でも不思議と居心地は悪くない。
「…避けられてるのかなーって思ってました」
深「…そっか」
「だから私もちょっと避けてました」
深「んふ 正直者だねぇ」
へらへら笑う感じも、間延びした緩い話し方も、適当に見えて適当じゃないんだと思う。
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作者名:あむ | 作成日時:2024年4月5日 23時