11月、校外学習 ページ10
11月となった。外はすっかり秋の気配が深まり、時折吹く風が冬の気配を感じさせる。
もうすぐ、1年生達のために校外学習を行わなければならなくなる。どこへ行くのか、何を学習させるのかなど、1年生担当の教員達で話し合う。
時折図書館司書や他の先生にも話を聞いてみた。
とりあえず前年度までの情報などを仕入れて、どこにするのか決める。
実際のところ校外学習でどこへ行くのかは11月になる前までには決まっていて、その微調整なのだけど。
「うー、緊張する」
わたしはかつてないほどに緊張していた。新任の先生になった時と同じくらい、だろうか。
だって1年生達を学園の外に連れ出さなきゃいけないんだから。生徒の安全を預かっている教員の身からすると危険なことが起こらないか心配になってくる。
一応わたしが担当しているグリーンアメシスト寮の子やミオソティス先生が担当するサファイア寮の子達はおとなしい子が多いからそこまで心配することはないと思うけど。
休みの日、教員寮で唸っていたら
「どうしたのですか」
とヘッケンローゼ先生に声をかけられた。声をかけてもらった嬉しさや驚きはあったけど、それよりも緊張が酷い。
「えっと、なんでもない……です」
うまく笑えただろうか。
笑ってみせたらヘッケンローゼ先生は少し不満そうな顔をした。正しくは口元が少しムッとした感じになった。
「なんでもない訳が無いでしょう。貴女がこんなに顔色を悪くしているなど」
「え、」
余計に心配させちゃったかな。
それからすぐにヘッケンローゼ先生はどこかに行ってしまった。それを残念に思う。
でも、少しすると彼は戻って来てくれた。温かい紅茶を持って。
「落ち着きなさい」
一言、短くそう言われる。紅茶を差し出されて、それを受け取った。
「どうせ校外学習のことでしょう」
「な、なんで分かったんですか!」
「……色々と聞いておりますからね」
「色々と?」
ヘッケンローゼ先生の言葉に首を傾げると、彼はふい、と顔を背けた。
「生徒達を外に出すのを怖がっているだとか。それに、予行練習だと言って修学旅行の事を聞いてきたではありませんか」
「あ、確かに聞いたね」
他の先生達にも心配をかけてしまったのだろうか。そうだとすると申し訳ないな。
「……生徒の事、信じてみてはいかがですか」
「落ち着いてきた。……生徒達のこと信じてみます。ありがとうございます」
それから郊外学習が始まった。何も悪いことはなく無事に終わった。
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作者名:鬼灯 | 作成日時:2024年4月10日 14時